PRODUCT INTERVIEW Vol.1
〈evam eva〉デザイナー 近藤尚子さん
大切なニットを長く着るために
クロスケアミストと過ごす冬
洗濯機で気兼ねなく洗える綿素材のTシャツと比べると、少しだけお手入れに気を遣ってしまいがちなのがニットやウールジャケットなどの冬の衣類。大切に着続けたいけれど、毛玉や静電気が気になってしまうことも事実。
でも、ちょっとしたケアのコツさえ覚えてしまえば、もっと気楽に、心地よく着られる時間が続くのです。
季節は冬。ニットが手放せない季節になりました。だからこそその魅力と長く着るための正しいケアのことを伝えたい。
そんな想いで向かった先は、上質な素材を使用したニットアイテムを展開する〈evam eva(エヴァム エヴァ)〉のショップやレストラン、ギャラリーが併設する『evam eva yamanashi』。
デザイナーの近藤尚子さんにご案内いただきながら、ものづくりへのこだわりやニットの魅力、そしてお気に入りの大切なものと長くつき合うヒントをうかがいました。
豊かな自然に囲まれた甲府盆地の山間。かつての屋敷跡に佇む衣・食・住をテーマにした『evam eva yamanashi』。
〈evam eva〉のこだわり、ニットの魅力
「ベーシックな色が一番素材感を引き立てると思います。触れずに見ているだけでも、”ああ、気持ちよさそうだな”って感じられるから。差し色を入れようかと考えたこともあるのですが、やっぱりそこには行き着きませんでした」
そう語るのは〈evam eva〉のデザイナーの近藤尚子さん。
ホワイト、グレー、ブラック、ベージュ……ナチュラルなカラーパレットで構成される〈evam eva〉のニットアイテムの数々。
素材選びにこだわり丁寧に編み立てられたニットは、シンプルなデザインでありながら糸や編み方によって風合いや触り心地はさまざまで、同じ色でも全く違った印象となり、一瞬でニットの奥行きの深さに引き込まれます。
そのラインナップを眺めているだけで、ニットにくるまれているような温かく穏やかな気持ちになります。それが〈evam eva〉のニットの魅力。
数々のニットアイテムを手がける近藤さんに、ものづくりの視点から「良いニット」とは何かをたずねました。
ウール、カシミヤ、シルク……心地よい天然素材で編まれた〈evam eva〉ニットアイテムの数々。
「 “ちょっとチクチクするな”とか“ちょっとここがつっぱるな”とか、“着たいけど重たそうだな”とか。小さいことでも、一日を共にしているとちょっとしたストレスになってしまうから、そういった気になることがないというのが良いニットなんじゃないかなって思うんです。
〈evam eva〉ではサンプル制作を3~4回と重ねて、柔らかさや着心地の良さを追求し、この“ちょっとした違和感”を取り除くための目に見えないような作業を続けています。
“ニットに包まれることが気持ちいい”と感じるタッチポイントがあると思うので、その一番いいところを目指していきたいですね」
長く着続けるために、大切なケア
心地よさで満ちたニットだからこそ、大切に着たい。そのためには素材の特性を知りケアすることが大切です。
〈evam eva〉のニットのように、ウールやカシミヤなど動物性の天然繊維は元々油分を含んでいますが、汚れや不要な油分を落としてから染色して工場に届きます。
糸にする工程でとじこめられてしまった風合いを蘇らせるため、そこに必要な潤いを補給することで触り心地がよいニットが生まれます。
しかし、着続けていると摩擦で毛が絡まって毛玉ができたり、ホコリなどの汚れが着いてだんだん風合いが失われてしまうので、毛の流れを整えてフワッとした状態に戻してあげるようなケアが必要なのです。
「糸そのものがストレスなく解放されていることが、ニットにとってよい状態なんじゃないかなと」と近藤さん。
「最近、ざっくりしたボリュームのあるニットでも『家で洗えますか?』と聞かれることも多くて、ご自宅でお手入れすることへの意欲の高い方が増えたように感じます。
〈evam eva〉では数年前からケアの方法を冊子にしてお客様にお渡ししたり、最近ではLINEで共有もしています。ケアにもいろんな方法があるとは思うのですが、私たちがこうしたらいいんじゃないかということを、道具などと併せて紹介しています。
ニットは扱いづらいイメージはありますが、そこに手をかけるっていうことも大切なことだと思います」
『色[shop]』では、ニットのケアグッズも展開しており、そのひとつにフレディレックのクロスケアミストもお取り扱いいただいています。
近藤さんご自身の普段のケアについてもうかがいました。
「一日ニットを着た後は、カシミヤブラシで毛の絡みをほぐしながら全体の汚れを落として、そのあとに〈フレディ レック〉のクロスケアミストをふりかけて少し寝かせてからしまっています。それだけでいい状態が保てると思います。あとは、どんなに毛並みが美しいニットでも、連続して着ると摩擦が続いてどうしても毛玉ができてしまうので、日を空けて着ることも長持ちのポイントです」
どんなスペシャルケアかと想像をめぐらすも、実際は至って簡単でシンプル。そこにも近藤さんらしい考えがありました。
「私自身“しっかりこれをしなきゃ”というタイプではないので、ケアは本当にシンプルだと思います。例えばブラシとクロスケアミストを玄関に置いておくなどすれば、もっと気軽な行為になりますよね。結局は動物の毛だから、自分たちが髪や肌に水分や油分を補うことと同じように考えればいいのかもしれないですね」
ケアの先にある、使い続けるという楽しみ
〈evam eva〉のデザイナー、近藤尚子さん。
日頃のちょっとしたケアが、ニットをよい状態に保つことだと教えてくれた近藤さん。そしてその先には、長く使い続けることの楽しさやそこに寄り添うものづくりの楽しみや喜びがあります。
「昨日ちょうど父が、『このニットいいんだよな』って自分が着ていたニットを見せてくれたんです。随分昔のものっぽいなと思って品番を調べたらもう10年前のニットだったのですが、すごくキレイな状態が保たれていたんです。
母がきちんと手入れをしてくれていたんですよね。それで私も自分のストールを見たら、それも10年くらい前のもので。
普段の暮らしの中でケアをしていたら、変わらずに長く使っていけるんだなと実感したところでした。〈evam eva〉のショップでも時折、私たちも忘れかけていたくらい過去の商品のお直しを受けることがあります。長い間丁寧にケアをされてここまで愛用されてきたんだなって、とても嬉しく思います。
私たちが作るニットは、素材から遡ると遠い旅をして今ここに行き着いています。そう思うと、すごく貴重な存在。だからできるものは再生し、作りすぎず、手に取った人には丁寧に長く着てもらいたいですね。ファッションの流れの中で生きながらも、少しずつ形を変えて時代と人に受け入れられるものを作っていきたいです」
近藤さんの企画によるアートやクラフトなどさまざまな展示を行う『形[gallery]』。この日は石川県輪島を拠点に漆器を作る赤木明登さんの展覧会が開催されていました。(会期終了)
近藤 尚子 Naoko Kondo / evam eva デザイナー
山梨県に拠点を構える家業のニットメーカー〈近藤ニット〉を継ぎ、
2001年に自社のブランド〈evam eva〉 を立ち上げる。
2017年山梨にショップ、レストラン、ギャラリーを併設する
『evam eva yamanashi』をオープン。
「着ること、肌に触れることで豊かな気持ちとなり、
心地のよい一日を過ごせるものを作り、
届ける側としても豊かであること」をコンセプトに
ものづくりを行っている。
https://evameva.jp