ゴアテックスウェアを洗濯する理由 〈日本ゴア合同会社〉伊藤由里子さん

ゴアテックスウェアを洗濯する理由

ゴアテックスウェアを持っていても、洗っていない人は意外と多いのではないでしょうか。実は多くのゴアテックスウェアは、家で洗濯が可能です。

ゴアテックスファブリクスを製造販売する日本ゴア合同会社の伊藤由里子さんに、「ゴアテックスウェアを洗濯する理由」について聞きました。

フレディ レック企画担当(以下、企)今回のインタビューの前に、フレディ レックの公式Instagramを通じて聞いてみました。「皆さんゴアテックスウェアを洗っていますか?」。結果は、持っている方の83%の方が洗っていませんでした。洗っている方はわずか17%。

伊藤さん(以下、伊)あまり皆さん洗ってないですよね。

地道な活動が必要なんだと再認識しました。そしてブランドとして発信する意味も大きいと改めて感じています。今日はゴアテックスウェアと洗濯について、詳しく教えてください。

はい、宜しくお願いいたします。

 

ゴアテックスファブリクスの機能について

:ゴアテックスファブリクスには、三大機能があります。それが「防水・防風・透湿」の三つです。防水は水を衣服の中に入れないこと。防風は風を通さないこと、透湿は衣服内の湿気を外に逃がすこと。そしてその三大機能を補助する役割として撥水があります。撥水は、生地の表面で水をはじくことで、本来の防水・透湿の機能を保つ役割を担っています。

ゴアテックスブランドは「防護性」と「快適性」を目指したものづくりをしています。
硬くて強い何かを着れば体は守れるけど、それじゃあ楽しめない。体をしっかり守りつつ快適なウェアを目指しています。
特にアウトドアでは、外からの雨・内側の汗などで自分の体がぬれて体温が奪われると命の危険に繋がります。

ゴアテックスファブリクスの構造

:生地は3枚のレイヤーになっていて、この表生地と裏生地の間に「メンブレン」と呼ばれる膜があります。先ほどの三つの機能「防水・防風・透湿」を持っているのは実はこのメンブレン。メンブレンはとても薄いので、はり合わせて3層の布をつくります。(※二層の製品もあります)その布を私たちは各メーカーさんに卸して、皆さんが手に取るウェアがつくられます。

ゴアテックスファブリクスの構造

 


メンブレン

 

:例えば、ランニング用は、薄くて軽くて透湿性を高く設計する。逆に雪山のクライミング用は、岩で少しひっかけても破れない耐久性がある表生地を使用したりする。
何のアクティビティのためのウェアかによって、表生地・裏生地の種類を変えています。

メンブレンを顕微鏡で見ていくと、蜘蛛の巣状になっています。この穴の大きさが、水は通さないけど水蒸気は通すという絶妙な大きさなんです。

顕微鏡で見たメンブレン

撥水機能とは

:撥水とは、水を表面で弾くことです。撥水する生地の表面には、撥水基と呼ばれる短い毛のようなものが立っています。水がウェアに触れるとき、撥水基が点で水を支えるので、水がコロコロと弾かれる。それが撥水の仕組みです。

そして、もし生地の表面に汚れが付くと、撥水基が倒れてしまいます。倒れた箇所には、水が広がってしまう。汚れると撥水性が下がるので、洗濯することで撥水性を回復できます。

撥水の構造
左:撥水されている状態 右:撥水性が下がった状態

そもそも撥水性を保つ意味って?

:ゴアテックスファブリクスから撥水性が無くなっても、「防水」はしっかりと機能します。着れますし、外からの雨などでは体は濡れません。でも撥水性がないと、水が生地の表面に広がってしまう。すると「透湿」が妨げられます。透湿できなくなると、体から出る湿気を逃がせなくなり体を濡らしてしまう、ということになるんです。

もう一つ、水の膜ができるとウェアは重くなり冷たくなります。冷たい生地が肌に触れることでそこからも体の熱が奪われます。アウトドアでは濡れることが一番危ないので、しっかり撥水性を保って着用してもらいたいですね。

なぜ洗濯するべきなのか

:洗濯する理由は2つあります。一つは「撥水性を回復させて三大機能を保つ」ということ。もう一つは、「シームテープのダメージを抑える」ということです。

ウェアの外側の汚れは、泥とか雨とか、目に見えることが多いです。しかし、内側の汚れはあまり目に見えないことが多い。でも実は内側の、特に首や手首、脇のあたりは、汗を沢山かくので汚れているんです。

ゴアテックスウェアには、防水性を確保するために縫い目のところに全部シームテープが貼ってあるんですが、汚れを内側にためてしまうと、シームテープの接着剤に悪い影響を与えて剥がれの原因になるんです。

ウェア内側のシームテープ

:また、たまった汚れによって透湿性が下がることもあります。当然テープがはがれると、縫い目から水が入ってくることがあり、防水ではなくなります。
メーカーさんによっては修理しているところもありますが、一度剥がれたものは完全には戻らないそうです。そうならないように、お洗濯や手入れをして、長くウェアを楽しんでいただきたいです。

:洗う頻度はどれくらいが理想でしょうか?

:私たちのおすすめは「使ったら洗う」。Tシャツと同じ感じで、山に1回行ったら洗ってくださいと言っています。ただ、日常生活でお子さんの送り迎えのときだけ着てるということであれば、そんなに頻度は高くなくていい。使い方・使う頻度によって、普通の皆さんのお洋服と同じように考えていただければいいかなと思います。でも基本的には、積極的に洗うのがおすすめです。

:洗い方のおすすめはありますか?

:製品のラベルに書かれているとおりに洗ってください。ポイントとしては「洗剤少なめですすぎはしっかり」です。何故かというと、洗剤が表面に残ってしまったら、汚れと同じように撥水機能を妨げてしまうんです。なので、柔軟剤などは使わず、洗濯時には表面に何も残さないことをおすすめしています。

洗う前に洗濯表示を確認

:ながく着ていると、洗っても撥水性が落ちていくことがありますね。撥水性が戻らなくなってきたら、熱処理をおすすめしています。熱処理とは、乾燥機またはアイロンで熱を加えること。撥水基には、熱を加えると立ち上がるという性質があるので、撥水性が回復します。

洗うこと、ながく着ること、サステナブルであること

:洗う、ながく着る、サステナビリティって全部一つのテーマかなと思っています。自然の中で遊ばせてもらっている我々がその自然を壊してはいけない、という話ですよね。なので、どのメーカーさんも今とても真剣に取り組んでいるテーマです。

ゴアテックスブランドとして、生地を作り製品を作り着用されてそれが捨てられるまで、その製品のライフサイクルの中で、どこの部分で環境への負荷が大きいのかを調べたんです。これを、「ライフサイクルアセスメント」と言います。これを調べると、製品の製造・輸送時の負荷が大きいということが分かったんです。

1つの製品を長く使うことが、環境負荷を減らすことにつながる。じゃあ長く使うためにどうするのかというと「洗う」ことが大切なんです。洗うことで長持ちするので、適切に洗濯をしながら長く使ってくださいということを発信しています。もちろん、開発のほうもリサイクル素材を使ったり、水の使用量を削減できる染め方を活用したり、そういった取り組みもどんどん進めています。

:代表的なアウトドアウェア素材のブランドである、ゴアテックスファブリクスを製造販売する日本ゴア社 伊藤さんにお話を伺いました。ありがとうございました。


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